新潟から脱出できなかった話

 山形の鶴岡で岩カキ、だだちゃ豆、クラゲ水族館、羽黒山を堪能したのち、私は新潟に向かった。青春18きっぷの貧乏旅行だったので、新潟までは2時間以上かかってしまい、着いたのは昼の2時頃だった。私は旅行先ですることを行きの電車の中で検索しながら決めることが多く、今回も同じようにしていたのだが、車中ではちょうどいい観光地を見つけることはできなかった。新潟駅付近の観光案内所に寄り、案内マップ的なものをみても、特にめぼしいものは見あたらない。佐渡はだいたい想像がつくし、せんべい工場などは論外だ。私は仕方なく、前にNGTの番組で見たことがあったメロンパンアイスを食べに、万代シティという商業ビルとバスセンターが合体したようなところに行くことにした。メロンパンアイス自体はチェーン店でいろいろな場所にあり、わざわざ新潟まで来て寄ることはないのだが、テレビで紹介されたものは食べたくなるという、女子中学生的な心が私の中にも微粒子レベルで存在し、何もすることが思いつかないというのが第一だったが、わざわざ食べに来てしまった。味は悪くないがやはり新潟で食べるようなものではなかった。アイスで手をべとべとにしつつ食べ終えると、同じフロアにイタリアンの店を見つけた。イタリアンというのは、所謂イタ飯のイタリアンではない。焼きそばにミートソースをかけて紅生姜の白いものを添えた、新潟ではメジャーなローカルフードである。これも同じくNGTの番組でみたものだった。やはり私の女子中学生的ミーハー心は細胞塊レベルで存在するらしい。迷う間もなく入店、イタリアンを注文した。イタリアンは若者が喜ぶような味・見た目ではないが、意外にも店内は混んでいて、若者が大半だった(万代という若者の多い地域のせいだと思うが)。5分くらい待つとイタリアンができあがった。味は屋台の焼きそばにレトルトのミートソースをかけたような味であり、この時点で新潟に思い残すことはないと判断した私は、次に行く都市を決めるため検索を始めた。検索の結果、特に何があるわけでもないが、そこそこの規模で行ったことがない都市であるという理由から、郡山に行くことにした。郡山への終電はあと1時間後。今いる万代シティからなら、かなりゆっくり歩いても間に合う。駅までの道のりで、これも新潟ローカルフードのぽっぽ焼きをみつけるも、先のミートソース焼きそばで満腹のためスルー。駅に着き、かなり余裕をもって乗車することができた。その日、私は朝から羽黒山の石段を登っていたせいもあり、速やかに入眠。1時間後、私が乗車した電車が到着したのは新潟だった。・・・私は混乱した。新潟発新潟行きの電車に乗ってしまったのか、いやそんな電車はあるはずがない。そもそも青春18きっぷで郡山に行くような長距離の普通電車は、終点までいってさらに乗り換えて終点まで行く、といったことを繰り返す長時間乗車が前提のはずだ。だからこそ私は入眠したのであった。・・・しかしそれがミスであった。新潟発のその電車は、30分で終点、折り返し30分で新潟に帰ってくるという、睡眠どころかうたた寝すら許されない電車であったのだ。トラップにまんまと引っかかった私は、こうして新潟に舞い戻ってきてしまった。「私は新潟から脱出できないのでは・・・?」そんな話もアニメや映画で見たことがあるような気がする。ある街からどんな手段を使っても脱出できない話。いや、現実から逃避するのはやめよう。私はなんとか新潟ですることはないか考えた末、何も思いつかず、おそらく最近になって無理くり名物にしたであろうソースかつ丼を食べ(ソースかつ丼は具もカツだけで、甘口のソースにくぐらせただけのシンプルなものだったので、あげ油の不味さが際立っていた)、夕暮れの新潟駅前公園を横目に(最盛期のウエストゲートパークにいたような若者たちがたむろしていた。そこで女子中学生くらいの集団が女同士でキスしまくっていたのを見たときは新潟すげえと思った)再び万代シティまで歩いて向かった。やはりすることもなく、レイトショーのシン・ゴジラを観た(新潟で唯一よかった)。その後、狭い漫画喫茶(ナイト4時間1600円)(漫画喫茶は都心の店舗ほど狭く、サービスも料金も悪い、東京は除く)で四肢に過剰な制限をかけられながら夜を明かし、朝4時の始発で私はようやく新潟を脱出することができたのだった。